Scarsdale
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日本でよく売れている反ユダヤ書籍  ある母親の記録: 偏見(5) 


イメージ:こま「あれえ。マミーってこんなに小さかったっけ?それとも少し縮んじゃったのう?」 素頓狂なおまえの声に振り返ると、驚いたことに私を見語めるおまえの二つの目と私の目とは丁度同じ高さでぶつかったのである。つい数日前の事だ。正直な所、あれえと言いたかったのはマミーの方だった。いつの問にこんなに大きくなったんだろう?でも、考えれば十一年間毎日一緒に過ごして来たのにいわれるまで、おまえが私と殆ど同じ高さになっていたのに気ずかずにいたなんて、本当におかしいね。(おまえも気がつかなかったようだけど)もうマミーより大きいおまえの同級生はいくらでもいるのだから、おまえがマミーの背丈になったとしても、何も驚くには当たらないと思うけれど、そして小さいマミーにおまえが追いつく事なんて時問の問題である事など分かっていた筈なのに、きっと心のどこかにおまえにもまた、何時までも大きくならないで欲しい願望みたいなものがあって、その成長に目をつむっていた部分があるのかもしれない。

本当はそこで直正直にわあこんなに大きくなってと喜ぶべきだったのかも知れないけれど、実際の感じとしては、ナヌー、もう、ふん、小癪な、という悔しさとも羨望ともつかない複雑な思いや、やれやれこれから叱りつけるのにおまえを見上げなければならないのかという憂欝だったりして、矛盾に満ちた母親の感慨にあらためて驚いたものだ。

ダニエル。自分の成長が自分では見えないおまえにとっては、生まれてこの方ずっと見上げていたマミ−が急に自分の目の高さにいたなんて、驚きかもしれないね。それまで絶対的だと思っていた母親が、何となく小さく見え出した時期は私にもあったような気がする。その時私が母の背に達していたかどうかの記憶は定かでないが、その項から自分が母親とは違う人格を持った人間である事に気付きはじめたのではなかったろうか。おまえもひょっとしたら、もうそんな年齢に達しているのかもしれない。最近おまえが時として見せる理不尽な反抗の様子などを見ていると、おまえの中の何かがダディやマミーの殻の中から抜け出したがっているのがよく分かる。でもお前はまだ巣立つには早すぎるし、それゆえにこそ私たちは以前にもましておまえを見守っていく必要があると思っている訳だ。おまえの目にマミーは小さくなったかもしれないけれど、なんのなんの、ダディと一緒におまえにかけている手綱はまだ当分、緩める事は出来ないと思っている。

さて先回は「ジャツプ」について書いたが、これに関連して気になる事はまだ一杯ある。ユダヤ系アメリカ人が憂慮している日本人の反ユダヤ思想もそのひとつだ。日本の実情をよく知らないユダヤ人の日本に対する危惧感や警戒心を最近特に周囲の人から感じるからである。

その危惧感は昨年、ニューヨークタイムズが「日本でユダヤ批判の本がベストセラーに」という記事を特集した頃からよけいひどくなったように思う。記事は「ユダヤが解ると世界が見えてくる」とか「ユダヤ・バワー」などの本が日本で数十万部も売れていること、歴史雑誌のユダヤ特集号が続いて出されていることなどユダヤをめぐる本か相次いでいることを紹介し、それらが、「大恐慌はユダヤが起こした」、「ロッキード事件はユダヤの仕業」、「日本叩きは国際ユダヤ資本が仕組んだ」、といったユダヤ非難を売り物にしていると指摘したのだ。

これに対して共和党のアレン・スペクター上院議良と民主党のチャールズ・シユマー下院議員は中曽根首相に、「人種、宗教に対する偏見は、過激な主張からはじまる。最高指導者である首相は反ユダヤ思想のひろがりを防ぐ為にこうした本を公式に非難するべき」とする旨の書簡を送った。在京イスラエル大使館も外務省に抗議をしている。その結果首相や大使舘が何らかの措置をしたのかどうか知らないが、その後帰国した時に本屋で見たこれらの本の相変らずの氾濫ぶりは少なくとも抗議が事態を変えるまでには至っていないことを感じさせて悲しかった。

マミーはおまえたちに「ジャツプ」などという言葉が浴びせられたとしたら相手の偏見で曇った目、問題の本質を見極めないで、絶えず責任を他人に転嫁するずるい姿勢を感じとるようにと書いたが、その意味で他者を非難することで自分たちの問題を転嫁しているかのような現今の日本の風潮が気にならずにはいられない。

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