求められる父親のPTA参加 「COME TO AMERICA Vol.6」(１９９２年)掲載記事より アメリカの学校、特に教育水準が高いとされているアメリカの公立学校では、ＰＴＡ活動が日本で考えられる以上に学校運営の中で重要な要素をしめています。例えば放課後や週末の各種スポーツ活動から、ボーイスカウト、ガールスカウトの活動、学校行事案内のための新聞や各種印刷物の発行、学校行事の手伝い、遠足の付き添いなど、教職以外のあらゆる仕事が父兄の手でなされていて、ＰＴＡの活動なしには学校は一日も成り立っていかないのではないかと思われるほどです。その参加の度合いについては、学校時間帯では母親の数が圧倒的に多いのですが、スポーツチームのコーチやボーイスカウトのリーダーなどをつとめるのは、ほとんど父親の独壇場となります。父親たちは、普段は医者であり、弁護士であり、銀行重役であり、企業役員であると言った風にそれぞれの分野で多忙を極めていますので、放課後や週末の時間を定期的に子供たちのために費やすのは決して楽なこととは思われないのですが、一週間に一、二回の練習や試合、会合には必ず定刻に現れます。やむをえず本人の都合がつかない場合でも代理の父親がすぐ駆けつけて来ます。 このようにアメリカの父親たちは、（もちろん必ずしも全ての人にはあてはまりませんが）時間的に少し無理をしても子供たちとかかわりを持とうとしているように見受けられますが、それは彼らにＰＴＡ云々以前の問題としてわが子の成長に対する自らの役割にはっきりした信念があるからではないかと言う気がします。つまり彼らにとって育児は両親の「共同作業」であり、スポーツ指導などを通してのＰＴＡ参加はその一環としてとらえられているのです。彼らはこうしてあらゆる機会に弛まず父親の役を果たしていくことで、それぞれの家庭で確固たる「父親の座」を維持しているように思われます。 日本人の父親の仕事にかける時間やエネルギーは、企業の繁栄をもたらし、世界に冠たる経済大国の礎となってきました。しかし、仕事に体を奪われるあまり、家庭がしばしば父親不在となっている様子は、育児を両親の「共同作業」を信念とする周囲の目にはそのありかたがいささか奇異にうつり、子供の学校に無関心といった印象を与えてしまうことも少なくないようです。その様子をあるスポーツの試合でアメリカ人の母親は、こんな風に話していました。 「日本人のお父さんたちは週末の試合でも応援にいらっしゃらない方が多いですね。わが子の活躍ぶりも楽しめないなんて何だかお気の毒だと思います。子供たちも両親に声援をうけたらどんなに励みになるか知れませんのにね。コーチの仕事だって普段とても忙しいチームメートの父親がつとめている訳ですから、自分でコーチをする時間がないのなら、子供をチームにいれっぱなしにしないでせめて応援くらいには来て欲しいものです。」彼女は、スポーツ競技がＰＴＡで運営されており、コーチもすべてボランティアで構成されている以上、試合を観戦し、味方チームに声援をおくるのも不可欠なＰＴＡ活動の一環であるといっている訳です。 アメリカ人の父親たちはまた担任との個人面接や教師の教育方針説明会（オープンハウスと呼ばれ夜開かれます）にも育児の共同責任者として可能な限り母親と共に出席します。教育委員会や各学校で行われるＰＴＡ会合で話し合われる議題にも常に関心をもっており、出席できない場合は必ずその後に出される報告書に目を通します。子供の通う学区をよくするのは自分たちであると言う自負を持つ彼らにとって、教育委員会や各学校の動きに自らの声を反映させるのは当然のことであるからです。ですから、こうした会合に日本人の、特に両親一緒の姿が増えることは、子供たちを在籍させているだけではなく、学区のありかたに関心を持っているのだと言う姿勢が理解されて地区住民に歓迎されることは疑いのない所です。 そうした会合などへの出席でその姿勢を示す他、日本人に求められているのは父親の積極的な活動への参加もあります。（母親の活躍は近年めだって増えています）活動は基本的にはわが子のために自分のできる範囲内で行うものですから、まず身近な所で前述のアメリカの父親たちのように自分の得意とするスポーツの指導からはじめるという方法もあるのではないでしょうか。密度の濃い親子の交流が楽しめるだけではなく、そうすることが自然な形でのコミュニティ参加にもつながる訳ですから。そのことはまたこれからやって来る人達が暖く受け入れられる大きな要素にもなります。 ともあれ、駐在中の日本人のお父さんたちを必要としているのは、日本企業だけではありません。家庭で、学校で、地域社会でお父さんの出番は待たれています。 Top 　　アメリカのボランティア活動